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きりんうるしでつながる共生社会

そして、第二弾が漆茶です。苗木を育てようとした時に、副産物で何かできないかと調べていたところ、種からお茶ができることが分かりました。二戸市に、漆茶を製造・販売しているところがあります。それなら、津軽塗の漆の種から、津軽ならではのお茶を作ってみようと考えました。

漆の苗木を生産する工程で、発芽しない種は廃棄されていました。この種を焙煎してお茶にすると、麦茶のような懐かしい味わいになります。ただ、漆茶の開発は試行錯誤の繰り返しでした。漆の種の表面は蝋の成分でコーティングされている状態です。これの蝋の成分は、舌がしびれるほど苦いので、沸騰したお湯で何度も洗って取り除く必要があります。表面の蝋を取り除いても、しばらくすると苦みが出てくるのですが、原因が分かりませんでした。

そして、何度も失敗を積み重ねた結果、種の中にある赤ちゃんの芽が原因だと突き止めました。漆の種の発芽率は非常に低いのですが、芽が入っているものに当たると、たった一個でも口の中が大変なことになります。そのため、種はすべて塩水選し、発芽しないものだけをお茶に使用します。つまり、廃棄するものだけを有効活用する本物のアップサイクル(※2)なんですね。

漆茶は焙煎の仕方で風味に変化をつけることができますが、津軽ならではのお茶を作りたいと思い、焙煎した種を燻製してみることにしました。この取り組みは、大鰐の「あじゃらで遊ぶ」代表の古川雄一郎さんからアドバイスをいただきながら、共同で進めています。まず国の交付金を利用して、燻製器を製作しました。

スモークチップには、リンゴやサクラの剪定枝や漆の木なども使用できるので、津軽らしい組み合わせを探っていきます。また、県産業技術センター弘前工業研究所と開発契約を結び、有効成分の分析と、味と栄養のバランスの取れた焙煎度合いについて試作を進めています。

※2:アップサイクル(upcycle):廃棄物や不要になったものに手を加えて、そのモノの価値を高めること。

きりんうるしプロジェクトでつながる世界

――次のステップを教えてください

漆を掻いた後の木は、現状では山に積み重ねている状態なので、廃材の有効活用を考えています。漆の木は製材するときれいな黄色をしています。これを若い人たちと一緒に商品開発していきたいですね。実は、母校の弘前工業高校建築科で、課題として取り上げていただくことが決まっています。生徒さんに制作してもらった「きりんうるしプロジェクト」のロゴを使って、積極的にPRしていきたいです。

そして、障がいを持つ方が係わることができる製品を開発し、平川市観光協会と連携して、どんどん盛り上げていきたいです。

――プロジェクトでは在宅ワークにも取り組んでいますね

最近、あるワークショップに参加し、車いすの方と一緒に作業をして、仲良くなりました。ずっと家にいて福祉サービスも利用していないとうかがい、在宅ワークできる作業がないか考えました。漆の木をチップにして煮出すと染料が採れます。たとえば、靴下工場で出る端切れや糸を漆染めにして、これを編む作業なら、在宅でもできますね。なお、漆染めは、弘前工芸協会会員で、りんご染の第一人者、佐藤芳子先生からご指導をいただくことになっています。

きりんのうるしを使って、漆染めの編み物や漆栞の製作、漆の種の選別などの作業を在宅ワークできれば、障がいを持つより多くの方に働く場所を提供できます。ところで、漆で肌がかぶれると思っている方が多いと思いますが、完全に乾燥した漆でかぶれることはないので、安心して作業できます。

また、漆苗生産で廃棄されるものを素材として、新しい付加価値をつけるアップサイクルの取り組みを通じ、工賃を増やすこともできます。そして、津軽塗をはじめとする伝統工芸の保護、観光振興、植樹による環境保全に貢献できます。

――今後の展望についてお話ください

地元の企業とつながり、お互いのためになる取り組みを進め、対等にお付き合いができるようになりたいです。そうなれば、働き甲斐にもつながり、もっと頑張れると思います。私の役割は、利用者と外部の企業と情報をつなぐ窓口だと思っています。福祉に興味を持っている方、漆に興味を持っている方がいれば是非お話したいです。そして、働きたい人が、きりんの里に来てくれたらいいな、と思っています。

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取材を終えて

編集しながら登場人物が多いことに気がついた。小林さんの思いと行動に、地域の多くの皆さんが共感し、応えている。誌面の構成上、掲載できなかった方もいる。この場を借りてお詫び申し上げる。

小林さんの取り組みには、何一つ無駄にしないとの決意がうかがわれ、SDGsが誓う「誰一人取り残さない」社会に通じる。きりんうるしプロジェクトを通して、「こばまゆ」さんが描き出すイラストの世界が、現実となる日が来ることを信じている。

(取材・編集 工藤浩栄)

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