2023.03
仲間とともに!
下北夏秋いちごの挑戦

夏でも冷涼な気候である下北半島は、長らく農作物の栽培に苦労してきた歴史がある。近年、その冷涼な気候を逆手に取り、夏秋いちごと呼ばれる、国産いちごの流通量が減る夏場に収穫されるいちごの栽培に取り組む農家が増えている。地元下北で新規就農し、夏秋いちごの栽培・加工に取り組む阿部伸義氏に、お話を伺った。
阿部 伸義
あべ・のぶよし:むつ市大畑町出身。高校卒業後、配置薬や自動車ディーラー、学校向け教材販売会社のセールスなどを経て、2015年、新規就農し、あべファームを創業。2019年、下北地域で採れた夏秋いちごの加工、販売を手掛ける株式会社A-berry(アベリー)を設立し代表取締役に就任。
営業スキルを活かして「稼げる農業」を目指す!!
――「脱サラ」して就農したきっかけは?
農業をはじめる前は、置き薬の営業を皮切りに学校向け教材販売まで、様々な営業職を経験してきました。ひたすら目標達成に向けて頑張る日々が続いていて、やりがいはあったものの、ふと立ち止まってみると、3人いる子どもとの時間が全く取れていないことに気付いたんです。その時、「このままでいいのかな?」という疑問が湧き、家族との時間を大切にしながら暮らしていける方法がないものかと考え始めました。
今は亡き父に相談したところ、「おまえは、自分でゼロから作物を育てて、それを自分で売って、買ってくれた人が、美味しいと言ってくれることに喜びや幸せを感じるはずだ。農業という道を考えてみたらいいんじゃないか?」と言われました。もちろん、最初は「え~農業か⁉」って(笑)。でも、せっかくだから情報収集もかねて、市内で米農家をしている妻の実家の両親にも相談してみたんです。そうしたら、妻の両親からも「ダメだダメだ。農業なんてやめとけ。食っていけない。これから子どもにお金もかかるんだから、稼げないとダメだ。」と言われてしまいました。それを聞いて、疑問に思ったんです。「農業ってどうして食えないんだろう?」って。
同じ種類の作物は収穫できる時期がほぼ重なるので、市場に一気に大量に出回ります。下手すれば、売れば売るほど赤字になってしまうこともあるんです。それは育てる作物の問題だったり、販路や売り方の問題であったりします。それらの問題は、戦略的に物事を組み立てていけば、解決できるのではないかと考えました。
私は、これまで物を売る仕事をしてきました。その経験を活かせば、「食っていけない農業」の問題を解決できるかもしれない。そして、一念発起し、就農に向けた準備をはじめました。
夏秋いちごとの出会い きっかけは県民局への相談
――育てる作物を夏秋いちごに決めたきっかけは?
理論上は、その土地に適した「お金になる作物」を見つけて育て、これまでの営業経験を活かして、これまでにない販路を開拓すれば、生活していけると思います。しかし、言うが易しで、そんなに簡単に見つかるものではありません。
農業に一度も携わったこともなく、真っ新な状態から準備するわけですから、何から手を付けてよいかも分からず、途方に暮れていた時、一人の友人が、下北地域県民局の存在を教えてくれたんです。恐る恐る窓口を訪ねてみると、本当に親切に対応してくれました。その際に、教えてもらった作物が夏秋いちごだったんです。
夏秋いちごは、市場にいちごが多く出回らない夏から秋にかけて収穫できる「お金になる作物」です。夏場に流通するのは輸入品が主流ですが、鮮度や安心・安全面から国産のいちごに対する需要は製菓業界を中心に高く、販路の開拓の余地もまだまだありそうでした。これだったらきっと「生計を立てられる」と考え、夏秋いちごを作ろうと決意しました。
もし、県民局の方がシャイン・マスカットを教えてくれたら、ぶどう農家になっていたかも知れません(笑)。そのくらい、県民局への相談時点では真っ新の状態だったんです。
――新規就農準備にあたり最も苦労された点は?
苦労という程でもありませんが、新規就農に係る補助金申請のための事業計画策定は、全く農業に携わったことがない中で、事業の全体像や数値計画を詰めていくのが大変でした。ありがたいことに、ここでも県民局の方が丁寧にサポートしてくれたおかげで、無事に補助金を受けることができました。
ゼロから情報収集し、手探り状態で準備をしていて、「ここはどう進めばいいんだろう?」という壁にぶつかりそうになることはありましたが、無事に新規就農にこぎ着けることができたのは、古くからの友人・知人、県民局の担当者等、多くの方々に支えてもらったからだと、本当に感謝しています。