2023.06
#むつ、おもしろくしようぜ。

人材不足が叫ばれて久しいが、厚生労働省の調査では、令和4年平均の全国での有効求人倍率は1.28倍、東北エリアは更に高い1.37倍である。別の調査では、職業別では建設・掘削業(東北エリア)は約2倍となっており、働き手を確保することが難しい現状にある。加えて、人材の需要と供給で見れば2030年までに全国で644万人、青森県では9万人不足すると推計されている。
そのような状況下、地元であるむつ市に戻った時には20~30歳代の社員が5名程度しかいない状況から現在は13名まで増えており、採用活動に成功している株式会社熊谷建設工業の熊谷圭之輔社長を訪ね、会社引継ぎ時のエピソードや、社員育成・地域振興への熱い思いなどをうかがった。
熊谷 圭之輔
くまがい・けいのすけ:1975年8月6日青森県むつ市生まれ。日本大学卒業後、㈱大林組入社。建設総合職として現場監督、技術部門、営業部門を経験。2015年むつ市に戻り、㈱熊谷建設工業入社。2020年実父から経営を引き継ぐ。建設業協会や法人会・商工会等の活動を通じ、地域の盛り上げにも力を注いでいる。
若手社員による自社ブランドメッセージ開発
――昨年は御社のブランドメッセージ開発のお手伝いをさせていただきました
弊社は1943年が創業ですので80年にわたりむつ市に根差してきました。『造る真心・受ける信頼』という企業理念には、安全・品質・コスト・工期・環境に対し「真心を込めて」取り組み、構造物を提供することによりお客さまに「満足」いただき、信頼されることで次の仕事に繋がっていくという創業者の思いが込められています。構造物はできてしまえば表面しか見ることはできません。見えない部分こそ「真心」を込めて、お客様が安心いただけるよう施工すること、「顧客満足」こそが大切だと考えております。
私は三代目社長として、創業者から続くこの理念を前面に出そうと努めてきました。そのため理念を更に分かり易く、社員の日々の業務に繋げるべく「顧客満足=社員満足=協力会社満足」という経営方針を掲げております。社員が仕事を工程通りに遂行することで、協力会社の皆さまのムダ・ムリ・ムラが発生しない等により、関わる全員にとって良き状況となることを志向しています。
その上で、若手社員による効果的な採用活動などを企図して幾つかのプロジェクトチームが走っておりましたが、新たにキャッチコピーをつくることもチームのミッションに加え、あおもり創生パートナーズにその舵取りをお願いしました。
最終的にでき上がった『#むつ、おもしろくしようぜ。』という成果物に勿論満足していますが、それ以上に若手社員が「熊谷建設工業の『つくる』を考える」ことをテーマに、自身の意見を考え伝える、他者の話を傾聴する等を体感したことが、それぞれの成長に寄与したと考えています。
――むつにUターンした経緯を教えてください
幼いころからものづくりが好きでした。プラモデルづくりも好きで、ガンダムもつくりましたが城や屋台といった構造物を好んでつくっていました。長男ですので高校時代までは漠然と家業を継がなきゃならないと思っていました。大学でも建築を学びましたし、そろそろ就職活動という時期に父親に、地元に帰る前提で仕事先を紹介してもらおうと相談をしたんですね。
そうしたら「甘いことを言うのなら帰って来るな」と叱られまして。当時は若かったこともあり、父のことも考えていたのにと頭に来てしまって「むつには帰らない」と決めて就職活動をした結果、大林組に入社しました。
大林組では、当初は現場所長に憧れて必要な業務スキルの習得に励み、その後は営業を担当しました。現場サイドと営業サイドとの間には、ある種の協力と対立が構造的に存在していました。これからは新しい営業の形が求められていると思い、戦略を立てながら仕事を進めました。皆さんを巻き込んで結果を出していくマネジメントを学び、現在も意識しています。
所属していた札幌支店の上司から、全社の経営に近付くべく東京本社への異動を勧められた頃に先代から「40歳までに帰ってこないのであれば弟に声を掛けようと思っている」という連絡がありました。そもそも高校時代までは帰ろうと考えていたわけであり、改めて考えると地元に恩返しをしたいと思い戻る決心をしました。
ところが、むつに戻り入社すると社内の雰囲気が暗いことから始まり、創意工夫ができない様子や現場の自由度がないといった課題を感じるに至りました。同年専務を任され役員として解決に体当たりしたのですが、想像以上に根深い問題もあり一度くじけそうになりました。そのような中で当社の良い点に目を向けてみると「社員が真面目である」ということがありましたので、一つずつ丹念に取り組もうと考えました。
5~10年後を考えると当時の社員の皆さんの多くが定年してしまう状況でしたのでハローワークに掲載している企業案内文の見直しから手を付けました。その際に自社の課題に取り組んでいたはずでしたが、建設業や社会が抱えるより大きな課題解決にも当社が貢献できるのではないかと考え始めました。
~挑戦~どうしたら社員を増やすことができるのか!?
――御社では20~30歳代の社員が大幅に増えましたが、多くの企業では若手の採用に苦戦しています
企業案内や求人票などの募集媒体に良い言葉を並べたとしても、実際に社員が満足しないと長く在籍してはくれないでしょう。当時、当社の労働条件は地域の中で見劣りしていると思い、当初は給与や手当の見直しからスタートしました。
業界動向等を見極めながら比較検討して整備していき地域トップクラスに改善しましたが、そのうちに他社と比べても意味がないと思い至りました。相対的にものごとを見るのではなく、自分たちはどうしていくか考えていくことがより大切なのではないかと思い、更に上位の概念として「誇れる会社になろう」という発想になりました。
現在の社員も、これから入社してくれるであろう現在学生の皆さんも「世の中の役に立ちたい」という気持ちが強くあるのではないか。他方、建設業として「世の中の役に立っている」ことがPR不足ではないかと思っています。構造物をつくる以外にも、冬場の除雪や春先の道路清掃も多くは建設業が担っています。
また近年多い災害も、その復旧は建設業の重要な業務であり、鳥インフルエンザが発生した場合の埋め立て処理を担っていることもあまり知られていません。こういった建設業の取り組みを伝えることも大事な役割だと考えています。